

不動産や株などの資産を多く所有している方なら、管理や運用を“資産管理会社”として法人化したほうが良いのか、という疑問を一度は抱いたのではないでしょうか。
資産管理会社の設立は、個人で管理する場合と比較して、おもに税制面でのメリットが大きい方法です。ただ、設立にあたっていくつか注意点も存在します。
この記事では、資産管理会社設立の3つのメリットと、具体的な設立方法、注意点を紹介していきます。資産管理を法人化するかどうか悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
資産管理会社を設立する3つのメリット
資産管理会社の設立には、税制面において大きく3つのメリットが存在します。それぞれ具体的な内容を見ていきましょう。
節税できる
法人は個人と比較して税率面で大きく優遇されています。具体的にどの程度違うのか、所得税と法人税の税率表を見てみましょう。
【所得税の速算表】
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上330万円未満 | 10% | 9万7,500円 |
330万円以上695万円未満 | 20% | 42万7,500円 |
695万円以上900万円未満 | 23% | 63万6,000円 |
900万円以上1,800万円未満 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
参考:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
【法人税の税率表(中小法人の場合)】
課税所得金額 | 税率 |
---|---|
800万円以下 | 15% |
800万円超 | 23.2% |
参考:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
個人の所得税は最大で45%で、住民税とあわせると55%にのぼります。一方、法人の場合の実効税率は、課税所得800万円超の企業でも33%です。単純に税率を比較するだけでも、かなりの差があるとわかります。
所得の分散効果がある
所得の分散が可能な点も、法人ならではのメリットといえます。日本では累進課税制度が採用されているため、配偶者などの家族を役員にして役員報酬を支払えば、世帯あたりの収入に対する税金が安くなります。
例えば、妻・夫・子供の3人世帯の場合を考えてみましょう。夫だけに1,000万円の収入がある状態よりも、夫に500万円、妻と子に250万円ずつ役員報酬を支払うほうが、世帯全体の支払税額は少なくなるのです。
個人事業主の場合も、専従者給与を利用することで家族への支払いは可能です。しかし、専従者給与はあくまで労働の対価であるため、具体的な労働が発生していなければ利用できません。税務調査に備えてタイムカードなど提示できる根拠も必要です。
この点、法人の役員報酬は専従者給与ほど勤務状況を厳格に評価されません。働いている実態がまったくないのは問題ですが、報酬と勤務状況の関連は薄いといえます。
なお、配偶者に役員報酬を支払うのであれば、非常勤役員にして収入を130万円以下におさえることで、社会保険の扶養に入れられます。
相続対策になる
資産管理会社の設立は相続対策にもなります。相続の際に一括で財産を譲るのではなく、役員報酬として分割して支払ったほうが、相続財産を減少させ相続税を少なくできるためです。
また、個人で収入を得ている場合、親族に財産を分配するには贈与を行なう必要があり、贈与税が発生します。贈与税は贈与の金額に応じて最大55%にものぼるため、事業を法人化して相続人に役員報酬を支払い、相続人それぞれが所得税として納税したほうが節税になることが多いのです。
自分の死後、相続が確実に発生するのであれば、生前から役員報酬として相続人に分配することで、相続財産の減少による節税対策が可能となります。
意外と簡単!資産管理会社設立の流れ

では、具体的に資産管理会社を設立するまでの流れを確認していきましょう。準備を始めてから手続き完了まで、順調に進めれば2~3週間ほどです。
1.社名を決める
まずは、社名と会社の形態の決定が必要です。会社の形態とは“株式会社”“合同会社”などの種類のことで、それぞれ設立の手続きや、会社を運営するうえでのルールが異なります。
資産管理会社の場合も、いずれかの会社種別を選んだうえで設立します。通常、合同会社か株式会社のどちらかにするのが一般的です。
合同会社は、株式会社と比べると“決算公告の必要がない”“設立の費用が安い”“役員の任期を更新する際の再任手続きが不要”などのメリットがあります。そのため、資産管理を主な目的とした小規模な事業を行なう場合に選ばれやすい形態です。
なお社名には、設立時に選んだ会社の種別が入ります。“田中太郎合同会社”“株式会社ABC”といった具合です。
2.必要なものをそろえる
資産管理会社設立の際の事前準備として、あらかじめ決定しておくことや、最低限準備が必要なものは以下のとおりです。
【事前に決定しておくこと】
- 本店所在地
- 出資者
- 役員(合同会社の場合は出資者が兼ねる)
- 資本金(1円から設定可能)
- 決算月(設立から1年以内)
【設立にあたり準備が必要なもの】
必要なもの | 概要 | 準備に必要な期間 |
---|---|---|
各種印鑑 | 代表者印 角印 銀行印 | 印鑑業者の納期によって異なる。3~4日は考慮しておく。 |
定款 | 会社の運営や設立に関するルールを記載した書類。 ・事業目的 ・商号 ・所在地 ・資本金(出資金額) などを記載する。 定款の更新は費用が発生するため、事業拡大の可能性がある場合はあらかじめ盛り込んでおくのがおすすめ。 | 内容にこだわらずテンプレートを使用するのであれば作成は最短1日で可能。 公証役場での認証が必要なため、最短で合計2~3日程度。 |
就任承諾書 | 役員から就任の依頼を受け承諾した旨を記載した書類。定款に記名、実印がある場合は省略できる。 | テンプレートを利用できるので最短1日。 役員が複数いる場合は全員分必要なため役員の都合に応じる。 |
払込証明書と 通帳のコピー | 資本金を発起人代表者個人の銀行口座に振り込み、その証明を取得する。発起人が1人の場合は預入でも可。 | 最短1日。銀行の営業日に準じる。 |
3.役所へ届出を行う
準備が完了したら、法務局と税務署へ以下の届出を行ないます。
【法務局で行なう手続き】
本店所在地の管轄法務局で会社登記の申請
【税務署で行なう手続き】
- 法人設立届出書の提出
- 青色申告承認申請書の提出(設立から3ヵ月以内)
- 給与支払事務所などの開設届出書の提出(源泉徴収した所得税納付を年に2回に減らす手続き)
これらの各種書類の準備や手続きは、司法書士や行政書士などの専門家に頼むこともできます。書類を準備する時間がとれない、確実に手続きを行ないたいといった場合は依頼を検討するのもおすすめです。
初心者は知っておきたい資産管理会社設立の注意点

資産管理会社を設立・運営する際は“コスト面”“税金面”でそれぞれ注意点があります。会社を設立してから後悔しないよう、事前に考慮しておきましょう。
資産配分が不動産や株式に偏りすぎている場合
会社の保有する資産の割合が不動産や株式に偏っていると、会社の株を相続する際、相続税の金額が高くなる場合があります。
非上場株の相続税評価額を算定するには、“純資産価格方式”と“類似業種批准方式”の2
種類の算定方法が用いられます。通常の非上場会社では、株価を低く算出する類似業種批准方式が基準です。
しかし、会社の資産割合が不動産や株式に偏った“株式保有特定会社”と“土地保有特定会社”は、株価を高く見積もる純資産価格方式で算定します。
結果として、株式保有特定会社や土地保有特定会社の場合、相続税が増加するため注意が必要です。具体的には、株式が会社の総資産額の50%以上を占めると株式保有特定会社に、土地の割合が総資産額の70%から90%を占めると土地保有特定会社に分類されます。
純資産価額方式だと相続税が増加する場合、資産の売却や買い付けなどの方法で比率を調整可能です。なお、課税の直前や合理性のない比率変更は税務署に課税逃れと判断され、調整前の比率で税額を計算されることがあります。
法人設立にかかるコストを知っておく
法人の設立と運営にはそれぞれ費用がかかります。会社の資本金自体は1円からでも設立できるようになりましたが、手続きや維持にかかる費用を考慮しておきましょう。
【会社の設立にかかる費用】
- 法人登記の登録免許税
- 定款の謄本手数料
- 定款の認証手数料
- 収入印紙代
設立の際には、合同会社の場合で10万円程度、株式会社の場合で25万円程度の費用が発生します。また、手続きを専門家に依頼する場合は別途5万円から10万円の報酬が必要です。
【会社の維持にかかる費用】
- 法人住民税の均等割分
- 税理士への報酬
法人税の均等割分は、赤字でも年間7万円前後発生します。また、決算書の作成や節税相談を税理士に依頼する場合、最低30万円程度の費用が必要です。これらの支出も考えたうえで、会社を作るかどうか判断しましょう。
まとめ
資産管理会社の設立は、収入金額の大きい方にとって節税対策として有効な方法です。所得税や相続税など、各種税金の支払いを減らせます。
法人の設立は、事前に決めなければならないことや書類が多く、準備に少々時間がかかります。自分ですべて準備するのであれば、2週間程度は見込んでおきましょう。自信がない場合は司法書士などの専門家に依頼して手続きを代行してもらうこともできます。
なお、法人の設立と運営には、資本金以外にも費用が発生します。これらを考慮したうえで、節税効果のほうが大きい場合は法人化を検討してみましょう。